第9回  正解(続き)
事件の主役、フェラーリ・ディノ
コンペティオーネ(W.T.206)





もう一人のディノ


■フェラーリ・ディノ・コンペティオーネは、ピニンファリーナが67年のフランクフルトショーに出品したコンセプトカーであり、同車のミニカーは2004年の現在、我が国のオークションサイトで、スケールを問わず、出れば必ず高値がつく、異常な人気モデルと言ってよいでしょう。

■画像のW.T.206番にしても、香港トミカは別として、いまや最も有名な香港物かもしれません。

■なぜか……は言うまでもありませんね。まあ、本稿を読んで下さっている10代、20代のコレクターさんのために説明しますと、ディノ・コンペティオーネは「サーキットの狼」で主人公の風吹裕矢が駆り、シリーズ屈指の過酷なレース(ファンタジー色全開!)を制したマシンなのです。

■正確に言えば、劇中車は、結核で死んだライバルの愛車ディノ246GTを改造したディノ・レーシングスペシャルであり、ディノ・コンペティオーネとは細部も異なるのですが、そんなことは、地球46億年の歴史の重みにも匹敵する、スーパーカーブーマーの熱い想いからすればまったく些細なことです(笑)。

■ディノ・コンペティオーネの小スケールモデルは、母国イタリーのスピーディ、ペニー、そして香港のティントイズからリリースされており(他にも存在するという未確認情報あり)、マッチボックスをはじめとするメジャーどころにはいっさい存在しません。


ディノにまつわる素朴な疑問


■現在オークションサイトで、かつてのスーパーカー少年達の心を駆り立てているディノ・コンペティオーネのミニカーですが、ワイキキには一つの疑問があります。とくに、子どもの頃に小スケールミニカーを集めていたというディノ・フリークさんにお聞きしたいのです。

■ブームの頃、いったいどれだけのスーパーカー少年が、小スケールのコンペティオーネの存在を知っていたのだろうかと。

■当時、標準スケールならばマルシンなどから何種類か出ており、比較的手に入りやすい状況にありました。でも、小スケールは? スピーディやペニーはさすがに一部のマニア向けで、知られていなくても当然です。では、WTはどうだったのでしょう?

■ワイキキは知っていました。
そしてそれが……事件の発端だったのです。
スピーディ版ディノ・コンペティオーネ


運命的出会い(……またしても)


■スーパーカーブームの真っ直中、すでに小スケールコレクターとしてヨチヨチ歩きをはじめていたワイキキは、ある日、一つの新聞広告に目をひかれました。細部はよく憶えていないのですが、たしか、カラーの日曜版だったと思います。

■“世界の名車を毎月あなたに”
……こんな感じのコピーでした。

■いまでもよくある通販方式で、代金を払えば月替わりで新しいミニカーが届くというスタイル。広告によると、毎月、F1とレーシングマシン、クラシックカー、スポーツカーが1台ずつセットとなって送られてきて、一年後には48台もの名車が壮観に揃うとのことです。

■トミカやマッチボックスにはないラインナップにワイキキはそこそこ興味をひかれましたが、ただのスーパーカー少年にカンナムマシンなどの価値なぞわかるはずがありません。クラシックカーなぞ、はなっから対象外です。

■ところが、そこで青天の霹靂!

■ワイキキは48台の中に見つけたのです。あのときの衝撃はいまだに体で憶えています。新聞を持つ手が震えました。目はモーターがいかれて開けっぱなしになったリトラクタブルライトのようでした。

■発見したのです、広告の片隅に。48台の中に。我らがアイドル、フェラーリ・ディノ・コンペティオーネの姿を!


カルミンは当時30円


■月々の支払いは1000円でした。現在の感覚でも、WT4台に毎月1000円は微妙なところです。

■だが、ディノ・コンペティオーネのためなら! ワイキキは知恵を絞って親に頼み込みました。一日50円もらっていたおやつ代をこれからは30円にしてほしい。で、一日20円×30日×兄弟二人のお金で<世界の名車>を買いたい、と。

■ミニカーのためなら、毎日毎日おやつがカルミンだけでもいい、と。
(スーパーカーとミニカーの次に好きだったカルミンだけはやめられなかったのです。)


香港製の名車達


■実際に手にとってみた<名車>は、裏面にMADE IN HONG KONGと入っている、チープきわまりないモデル達でした。ブランド名らしきものは見あたらず、W.T.の文字だけが目立つそれらは、同じ香港製のポケッターと比べても明らかに軽い作りでした。

■でも、かまいません。ワイキキが本当に欲しかったものといえば、その1台であったのですから。
11ヶ月目に送られてくる、ディノ・コンペティオーネただ1台であったのですから。

■半年が過ぎる頃には、F1もカンナムマシンもそこそこの台数となり、いっぱしのコレクションらしくなってきました。街のオモチャ屋では見たことのない、珍しい車種も増えました。

■でも、気持ちはすでに数ヶ月先に行っています。欲しいものはただ一つ。風吹のディノ。流石島レースで風吹裕矢が駆ったあのディノがやってくるのはもうすぐです。


そして事件が起こる


■それは7ヶ月目のことです。例によって通販の荷物が届きましたが、いつもよりもはるかに大きなサイズの包みでした。

■早速開封してみると、中から姿を現したのは見るからに安っぽい人形ケースでした。“<世界の名車>シリーズを購入したあなただけが手にすることができる”というふれこみの特製飾り棚です。

■嫌ーっな予感がしました。なぜなら飾り棚は、全48台を購入した暁に、特典として送られてくるはずのものだったからです。

■そして同封されていた一枚の紙に、こういう意味のことが書かれていました。
“<世界の名車>は、都合により今回で終了いたします。終了にあたって、購入者特典の豪華特製飾り棚を……”

■ちょっと待て。
都合って?
残りのミニカーは? 
肝心かなめのディノは?

フェラーリ・ディノ・コンペティオーネはぁ!!!???

…… …… ……
…… ……
……



さて、ここで問題です。

◆ワイキキ少年は、ディノ・コンペティオーネを目当てに<世界の名車>を毎月注文していたのであるから、通販会社に慰謝料を請求できる。

◆通販会社は、8ヶ月目以降の代金を受け取っているわけではないので、契約は成立せず、ワイキキ少年は慰謝料を請求できない。


法律はどっち?

請求できる 請求できない